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【富士山登山鉄道構想】 知事は鉄軌道方式を断念するも問題は山積み。構想そのものの撤回を~県の『中間報告』を読み解く

2024年11月26日 日本共産党山梨県議団

山梨県の長崎幸太郎知事は、11月18日の議員説明会及び同日の記者会見で、富士山の抱える問題(オーバーツーリズム対策のための来訪者コントロール、排ガス車による環境破壊)を解決するためとして進めてきた富士山登山鉄道構想について、これまで検討してきた次世代型路面電車(LRT)による「鉄軌道」方式を断念し、新たにゴムタイヤによる車両を用いた『富士トラム』構想を発表しました。

その理由について知事は、建設に伴う環境負荷など、「(地元の富士吉田市や建設反対の団体から寄せられた)鉄路に対しての深刻な懸念をしっかりと受けとめて、鉄軌道に変えて、ゴムタイヤで走る新交通システムに転換する」と述べ、あたかも反対の声に“耳を傾けた”結果のように述べています。

しかし、県がそれに先立ち10月28日に発表した『事業化検討に係る中間報告』(以下『中間報告』)を読むと、LRTによる登山鉄道構想がすでに行き詰っていたことがわかります。そして、それは新案になっても消えない問題です。これらについて、『中間報告』の内容をもとに明らかにしたいと思います。

検討費に6千万円つぎ込むも、登山鉄道の行き詰まりが明らかに

まず、LRTの行き詰まりについて、例えば急勾配、急カーブへの対応です。登山鉄道のルートとなる現在の富士スバルラインは平均勾配52‰(パーミル)、最大勾配88‰です。『中間報告』では「軌道法の勾配制限は40‰であり、特殊箇所は67‰」であることから、「富士スバルラインのヘアピン箇所など、急曲線と急勾配の競合区間は厳しい条件」になると認めています。車両メーカーからの聞き取りでも「曲線通過では速度に依存し、乗り上がり脱線あるいは転覆脱線などの危険がある」「鉄輪の一般的な最小曲線300m程度に見合った路線計画が必要」と、厳しい意見が寄せられています(富士スバルラインのヘアピンカーブの最小曲線半径は約30m)。

これに、富士山特有の自然条件が拍車をかけます。『中間報告』では率直に「降雪等により粘着係数が大幅に低下し、空転・滑走等の危険性が高まる」「強風による倒木」への対応や「落ち葉による車両の空転」などの懸念が述べられています。

また、LRTの電力をどうやって確保するのかも容易ではありません。富士山登山鉄道構想では、LRTは「ワイヤレス給電なので、架線がなく、新たな開発は必要ない」と、今年の8月の広報でも宣伝していました。しかし、『中間報告』では架線レスのワイヤレス給電(非接触型給電)方式について、「コストが高くなる」「実用例は未だ報告されていない」と指摘。また、車両に充電池を積み込む充電式であっても「山麓から五合目まで30km弱を途中での充電無しで登坂するには、将来のバッテリーの飛躍的な蓄積エネルギーの高密度化を待たなければなりません」と、その困難さを吐露しています。架線からパンタグラフを通じて給電するのでなく、レールの間に給電用の電線を設置する「第三軌条方式(都内の地下鉄などで採用)」も、「雪や雪崩等の影響で、安定給電や安全性の観点で充分な配慮が必要」と、簡単ではありません。

 こうした課題を前に、車両メーカーも「技術的な懸念要素が多く、車両成立の見通しが立っていないため、開発期間や見積の積算はできない」「全く新たな車両開発となるため、基本的事項の整理が必要であり、現時点では費用・期間を概算することは難しい」と厳しい見方を突き付けています。そして、『中間報告』の最後は「来年度以降は鉄輪式の車両の適用を基本としながらも、軌道法での運用可能な鉄輪以外のLRTシステム適用も視野にいれて検討することが望ましい」と締めくくられています。

これらは、富士山をよく知る地元の関係者から、すでに指摘をされていたことです。この『中間報告』を含む検討費に昨年度約6千万円余の税金が投じられています。技術的に実現可能かも不確定な内容を前提にした広報のやり方も問題ですが、その広報費を加えればさらに金額が増えます。

反対が強く、技術的にも難しいと指摘されてきた富士山登山鉄道構想。そこに県民の税金をつぎ込み、県民をミスリードし、県政を混乱させてきた知事の責任は重いといわざるを得ません。

車輪が「鉄」から「ゴム」に変わっても、問題は山積み

登山鉄道構想の問題がこれで終わったわけではありません。鉄輪式に変えてゴムタイヤを装着した連結車両『富士トラム』を走らせるという計画を知事は示しました(下写真:山梨県の発表資料より引用)。「これで大規模な開発の必要がなくなる」とか、「経費をだいぶ少なくできる」という発言が知事を含め、担当部局からも聞かれますが、本当にそうでしょうか。先ほどの富士山登山鉄道構想の『中間報告』からは、車輪が「鉄」から「ゴム」に変わっても、まだ解決しない、変わらない問題があることが見えてきます。

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一つはLRT同様、トラムの技術的課題は不透明ということです。議員説明会でのやり取りでは、すでに実証運行している中国の車両メーカーの話として、登坂能力、制動性能、急カーブへの対応は問題ないとの説明がありましたが、これはLRTの時と同じ論調であり、富士山特有の環境などを踏まえれば、その難しさが露呈する可能性があります。

また、トラム独自のものとして、“磁気マーカーもしくは白線により、車両を誘導する”しくみがあります。鉄道と違い、ただ白線を引くだけなので大規模な工事の必要がないとのことですが、雪や氷が路面を覆った場合にこれが機能するのかは誰もが疑問を持つことではないでしょうか。県は『中間報告』の作成にあたり、今年3月20日に富士スバルラインの現地調査をおこなっていますが、その内容が「四合目より標高が高い道路の表面は雪と氷の互層になっており、10~40cm程度の厚みがあるようだった」「洞門内路面は氷厚2~3cm」と『中間報告』に記載されています。冬季の富士山は3月後半とはいえ、まさに雪と氷の世界です。議員説明会では雪や氷を解かすロードヒーティングも検討すると説明がありましたが、そうなれば大規模な工事に発展しかねません。

また、『富士トラム』の動力については、山梨県がすすめる水素の生成システムを活用した、燃料電池を採用する可能性が高いこと述べられています。実際に『富士トラム』のイメージ図では、車体に「HYDROGEN MOBILITY(水素燃料電池車)」の文字が刻まれています。二酸化炭素の排出抑制は理解できますが、問題はそれが可能かどうかです。『中間報告』の中では、LRTの動力として水素燃料電池を検討していますが、そこでは燃料電池に起因する「水」について「(冬季に)凍結の恐れ、寒冷地での運転実績は不十分」と指摘しています。

新案でも事業費は1000億円!大型開発はそのまま

『中間報告』では交通システムに付随する開発についても触れています。終点駅となる五合目の開発では、「半地下方式を想定」した駅施設や「車両格納機能」が必要としています。また中間駅も4か所を想定しています。これらの開発はLRTからトラムに変わっても必要な内容です。加えて、水素燃料電池車を採用するのであれば五合目にも「水素ステーション」の設置が必要になるとしています。また富士スバルライン上の9カ所の橋梁について「車両選定を踏まえ、荷重に耐えられるか改めて評価を行なう必要がある」として、場合によっては橋の補強工事も必要になるとしています。

では事業費はどうか。『中間報告』によると、LRTの場合の事業費は総額1340億円を想定していますが、この内、軌道(レールや分岐等)を340億円と見込んでいることから、その分を節約できたとしても1000億円はかかる計算です。これをもって経費を大幅に少なくできるとは、とても言えません。

これまで所々で課題となっている冬の富士山への対応ですが、県が冬場の運行にこだわるのは、事業の採算性の問題があります。県は年間300万人、一人当たり往復1万円の運賃を想定しています。そのために一日12,000人を移送しなければならず、複線軌道で6分間隔の運行が求められます。これでは山手線など都市部の電車運行と変わらず、かなりの無理があることは明らかです。しかもそのためには冬場も含めた通年運行が求められることになり、結果として採算性と技術的問題の板挟み状態となっています。そしてこれはLRTからトラムに変わっても突き付けられる課題です。

構想を全県に拡大し、更なる大型開発の可能性も

さらに注意しなければならないのは、『富士トラム』への変更を契機に、富士登山から県内周遊へと、運行地域を全県へ拡大しようとしていることです。知事は11月18日の『富士トラム』についての説明で「この新提案の目玉ですが、富士山の課題解決はもちろんのこと、それのみならず、県内二次交通網の抜本的高度化に寄与しうるものであろうということであります」と述べ、将来建設が予定されているリニア中央新幹線の山梨県駅(甲府市)をはじめ、県内各地をこのトラムでつなぐ“大風呂敷”を広げてみせました。ゴムタイヤだから、今ある道路の上をどこでも走れると言いたいようですが、前述のように課題は山積みです。登山鉄道構想以上に大規模開発にならないか警戒が必要です(下写真:山梨県の発表資料より引用)。

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富士山の課題解決へ、電気バスを活用した交通規制は可能

日本共産党は登山鉄道構想に対して、“今も運行している電気バスの活用を広げていけば来訪者コントロールも環境対策もできる”という対案を示してきました。これは地元関係者も同じ意見だと思います。県は「電気バスだけを通して排ガス車を規制することは道路交通法上難しい」という主張を繰り返していますが、今年の2月議会での日本共産党の質問に対して警察本部長が「交通公害を理由に交通規制を実施する場合には、排気ガス等による人の健康又は生活環境にかかる被害について、エビデンスや地域住民の合意形成等について、十分な検討を重ねた上で慎重に判断していく必要がある」と答弁しています。道交法に基づいても交通規制は十分可能と考えます。

11月19日、富士吉田市が行なった電気バスによる自動運転の実装実験を視察し、実際に自動運転のバスに乗車してきました(下写真)。街中と違い、信号や建物のない富士スバルライン上のほうが自動運転も運行しやすいと実感できました。まだ検証が必要でしょうが、LRTやトラムに比べたら、これ以上の開発を必要としない、十分に実現可能なものだと思います。大きな開発をせず、富士山の抱える課題を解決するには、電気バスの運行が最も現実的です。

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富裕層ねらいの構想そのものの撤回を

なぜ、電気バスではいけないか、なぜLRTやトラムでなければいけないのか。それは県が富裕層をターゲットにした構想を描いているからです。往復の運賃1万円をはじめ、五合目には1泊8万円の高級ホテル(県が9月20日に発表した『富士山登山鉄道官民連携方策検討調査報告書』より)など、富士山を使っていかに富裕層を呼び込むかという発想が根底にあります。富裕層には観光バスのような座席でなく、もっと優雅で特別な乗り物でないと満足していただけないということでしょう。

富士山登山鉄道構想に反対する団体が各地でつくられ、11月13日には長崎知事に約7万筆の反対署名を提出しました。鉄道からトラムには変わりましたが、ここまで見てきた問題点を共有し、富裕層のために富士山を傷つけるような県の構想を撤回させるために、引き続き取り組んでいく決意です。

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