山梨県が進めようとしている富士山登山鉄道構想、知事は環境対策や入山者数抑制などで鉄道が必要との見解を示していますが、現在既に運行されている電気バス(EVバス)で十分可能なのではないか、その可能性について検証するために8月24日に現地視察をおこないました。山梨県は現在の富士スバルライン上にLRT(=次世代型路面電車)の登山鉄道をつくる計画です。
EVバスの様々なメリットを確認
まず伺ったのはEVバスを運行している富士急バス株式会社です。社長をはじめ担当者の方のお話を聞くことができました。同社では2020年から3台のEVバスを導入して以来、今年度にグループ全体で13台を運行する計画です。EVバスは満充電で約250kmを走行でき、富士山五合目まで3往復できるそうです。さらに追加で充電することで1日の運行距離を延ばすことが可能です。排ガスを出さず静かでクリーン、エンジン車に比べてマシントラブルが少ない、車検の点検項目が少ない(=車検代が安くなる)、購入にあたって国の補助金を活用できる(充電施設にも補助金あり)など、様々な点でメリットがあるそうです。エンジンがない分車内も広く、乗車定員も車両によって56~70人となっています。お話を伺った後、実際に運行されされている定期路線のEVバスに乗車して富士山5合目を往復しましたが、低重心のためかカーブなども外に振られる感覚が少ないと感じました。また下りも回生ブレーキを使用しているので、通常のブレーキングが少なくてすむ分ギクシャク感が少なく、全体としてとてもスムーズな印象でした。
県の試算内容の問題点も明らかに
県は富士山五合目までマイカー規制が行なわれる夏の期間、想定される約160万人の入山者(富士登山者や五号目観光客の合計)の運送のために、EVバスでは一日当たり65台が必要になると試算。人数的に登山鉄道なら運送が可能だが、バスではこの台数を確保することが難しいと説明しています(知事政策局富士山登山鉄道推進グループ談)。しかし、この試算はバス1台当たりの乗車数を40人としており、説明のあった乗車定員数で計算すると一日当たり37台~46台となります。また、現在5合目までは富士急バスが運行する定期路線バスとシャトルバス以外にも観光バスが乗り入れていますが、観光バス会社の協力も得ながら全体をEVバス化していくことも検討すべきではないかとの意見も聞かれました。そもそも、入山者数を抑制していく方針は山梨県としても計画していることであり、そうすれば当然運行台数も少なくて済むはずです。
「登山鉄道ありき」の県の姿勢に批判も
5合目では神社や売店の関係者のお話もうかがいました。「鉄道を複線でつくってしまったら救急車両の運行が難しくなるのではないか。物資を運ぶ上でも自動車の運行は必要」「鉄道なら冬も5合目まで入山者を運べると計画しているが、いまでも冬場のバスは運行している。当然警報級の大雪が降ったら運行できないが、それは鉄道も同じではないか」「5合目にまだ整備されていない電気や水道を鉄道建設と一緒に整備すると言っているが、それは切り離して整備可能な話。鉄道を造らないと電気も水道も通さないというのはおかしい」など、「鉄道建設ありき」ともとれる県の姿勢に批判の声が聞かれました。また、登山道が渋滞する状況や、軽装備の観光登山、無理な日程での弾丸登山にみられる現在の富士登山の課題についても、世界文化遺産の登録要素でもある山岳信仰や信仰登山としての価値を、登山者にも観光客にも周知していくことで解決していく必要性に触れることができました。
先日の富士吉田市長との懇談にも共通する内容もありましたが、今回の視察調査で確認できた内容をもとに、富士山登山鉄道構想の問題点を洗い出し、計画中止を求めていきたいと思います。